08 Toque de Guiros - グィロ(チェケレ)のリズム2011/02/20 23:33:52

08 Toque de Guiros - グィロ(チェケレ)のリズム


 ヨルバの人々に連綿と受け継がれる多神教崇拝(サンテリア)の複雑な宗教儀礼は、その音楽とダンスが複合して表現される媒介手段であるため、キューバの音楽文化において大きな重要性を持つ。

 これらの祝祭で用いられる楽器のひとつがグィロまたはアブウェである。キューバではこのような楽器は基本的に、ハバナ市やマタンサスといった西部州の地方や都市部に点在するカビルドに現存する。

 現在のグィロとアブウェのアンサンブルは、18世紀の終わりから19世紀にかけてアフリカ西海岸からキューバへ渡ったという奴隷制度の史実のみならず、ヨルバ文化と直接的につながってはいるものの、キューバの社会文化面における音響や表現上の必要性による発展過程で生まれたものである。

 これらの楽器の主な特徴は、多くの場合において伝承者の求める発展性や客観的ニーズによって形作られる。その際、キューバの熟練者や製作者による新たな技術や材料の構築と再構築を繰り返してもなお変化を伴いながら形作られる。

 製作法と演奏法は、いずれもこれらの楽器のレパートリーや作品と同様に部族内での口述伝承や伝統を継承する者達のグループにより現存しているものである。

 グィロもしくはアブウェは、キューバではチェケレとも呼ばれるが、この伝統の主たる継承者であるサンテーロは、その名称を使用せずグィロの方を好むようである。

 アンサンブルは3つのグィロにより構成され、そのサイズにより一番大きなものからカハ、次にムラまたはセグンド、そして一番小さなサリドール・ウン・ゴルペもしくは単純にウノと呼ばれ、それぞれ大きいものから低、中、高音域を出す。

 グィロもしくはアブウェは、胴が空洞状の体鳴楽器で、グィロ・アマルゴ(瓢箪)を乾燥してくり抜き、パイナップル系植物の葉の繊維(Pita)もしくは細い麻紐で作られた網で覆われている。この網状のものはグィロを覆う形に施され、ネックの周りと底部にそれぞれ通した縄もしくは麻紐で留められ網が滑り落ちないようになっている。こうして網がこの楽器の上下の端を除く全てを覆う格好になる。網にはビーズや種が通されており、これらが胴の外側に当たって音が鳴る。

 底部(外側)には、演奏中の破損を防ぐために皮やキャンバス地の布が貼られている。網の上部から底部の縄もしくは紐へかけては、装飾のために色の付いた幅広の紐が結ばれている。

 これらの楽器は両手で振り、あるいは片手の平を半分閉じた状態で底部を叩いて鳴らす。演奏者は上部の開口部に取り付けられた紐の持ち手に親指を通すか単純にネックを掴んで持つ。

 グィロやアブウェは宗教儀式で使用される主要な楽器ではないので、演奏者は信者もしくは清めの儀式を受けた者である必要はない。製造にあたっては特定のハーブで洗われた後、洗礼を施すために聖水がかけられ、音が良くなるためのパワーをグィロに与えるために動物の生贄などが捧げられる。

 このグループでは、サイズの大きなアブウェもしくはカハが即興演奏で非常に象徴的なリズムを表現し、他の2つのグィロはより規則的なリズムを繰り返し低音カハの演奏の土台となる。

 楽器のグループ構成は、1本またはそれ以上の(通常は2本で例外的に3本の場合もあるが)トゥンバドーラに代表される皮面を叩いて演奏する楽器が入って完成する。即興演奏は最も低音域のもののみがおこない、全体で異なる音色、音域が混ざり合った多様なリズムやコンビネーションが用いられる。

 その他には1つないし2つの金属製の、主に鍬刃(グァタカ)もしくはセンセロといった打楽器が用いられ金属の棒で叩いて鳴らす。これらは最も高音域で、その音色は他の楽器の中で際立つことから、このアンサンブルにおいては通常リズム維持のガイドとなる。

 グィロもしくはアブウェのレパートリーは、サンテリアの多神教崇拝と符合するヨルバの神々の唄や踊りのためのリズムを含む。この一連のリズムと唄はオル・ルクミと呼ばれ儀式の規則により予め定められた順序で演奏される。エレグアに始まり、次に戦士の神々、そして残りの神々へと続き、最後にそのリズムが導くオリシャで終わる。オル・ア・チャンゴーなどのような場合には、そのオルが捧げられる神で終わる。

 祈祷の唄はソロとコーラスの構成で唄われ、最後の唄では祭礼の参加者も加わり一曲全てもしくはアクウォンまたはガリョと呼ばれるソリストが発したパートを繰り返し唄う。これらの唄では、儀式で用いる言語が維持され口述文学の伝統が受け継がれている。

 リズムや唄は現地録音されたもので、ハバナ市、ハバナやマタンサス州の地元を代表する演奏グループや伝統継承者たちの演奏であり、キューバ西部地域の一部と他の地域へ移行した祝祭と宗教的ニーズをカバーしている。

 これらのグループのメンバーのほとんどは献身的なサンテーロ、あるいは他の民間宗教崇拝者で、前述の各都市に現存するレグラ・オチャもしくはカビルドといった宗教施設との繋がりがある。

 グィロス・サン・クリストバル・デ・レグラは1955年にディレクターのレネ・ロバイナ・セネカにより創設されたグループで、ハバナ市のレグラ地区でのサンテリアの祭礼のダンスと唄のために集まっていた演奏者たちである。

 このグループのアンサンブルは3つのグィロ、2本のトゥンバドーラ、そしてグァタカで構成される。唄に合わせてバタのアンサンブルのリズムをグィロや基本的にはトゥンバドーラで模倣して演奏している点はユニークな特徴であると言えよう。

 抜粋した音源は1983年録音で、以下の演奏者によるものである :

 ホセ・ギル・デルガード : ソリスト、歌手
 フランシスコ・ロドリゲス・モレノ : ソリスト、歌手
 レネ・ロバイナ・セネカ : 歌手、ディレクター
 フランシスコ・バラエス : パーカッショニスト
 エルネスト・セダーノ : パーカッショニスト
 アンドレス・バラエス : パーカッショニスト
 ホアキン・バラエス : パーカッショニスト
 フランシスコ・ケサーダ : パーカッショニスト
 ロベルト・ウィリアム : パーカッショニスト
 ウラディミール・オファリル : パーカッショニスト
 カンディド・ダミアン : パーカッショニスト

 アグウェは1936年にディレクターのパブロ・パディリャ・ビヒルにより創設されたグループで、ハバナ州の自治都市ヌエバ・パスの伝承者たちから成る。アンサンブルは前述のグループと似ているが、センセロの代わりにグァタカが使用されている。

 1986年に以下の演奏者によって収録 :

 アレハンドリーナ・ロセル : ソリスト、歌手
 マリオ・オファリル : コーラス
 エドゥアルド・パディリャ : パーカッショニスト
 パブロ・パディリャ・スアレス : パーカッショニスト
 アンヘル・トラパ : パーカッショニスト
 フェリペ・トーレス : パーカッショニスト
 ホセ・L・アマド・エレーラ : パーカッショニスト
 ビクトル・プエイ : パーカッショニスト
 ラモン・パディリャ : パーカッショニスト

 ここには1984年収録の2つのグィログループも含まれている。ひとつはニロニイェのカビルドもしくはロア・イホス・デ・アトーチャ(1922年マタンサスで創設されたサンテーロのエウヘニオ・ラマール(チューチョ)率いるグループ)に属し、唄い手と演奏者はこのいずれかと繋がりがあり、3つのグィロ、2本のトゥンバドーラとグァタカで構成される。

 リモナール地方出身のグループ、エル・ニーニョ・デ・アトーチャは、ベニート・アルダマが創設者でありディレクターである。このグループは本収録の他のどのグループとも異なり、トゥンバドーラ1本とグァタカ2つ、そして3つのグィロまたはアブウェという構成である。

 ベニート・アルダマ : ソリスト、歌手、ディレクター
 マルタ・バユン : コーラス
 ラファエル・ガルシア・ガルシア : パーカッショニスト
 ファン・バロ・バロ : パーカッショニスト
 フェリックス・アバリ・ドミンゲス : パーカッショニスト
 ラウル・ベントーサ : パーカッショニスト
 クラウディア・レンドン : パーカッショニスト
 ペドロ・ハムレ : パーカッショニスト
 ダゴベルト・ネニンゲル・ディアス : パーカッショニスト


Antología de la música afrocubana.
Liner notes by María Teresa Linares. EGREM. col.0011.

※ 演奏者のクレジットが英語版とスペイン語版で異なるため、オリジナルのスペイン語版に準拠しました。

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