05 Fiesta de Tambor Yuka - ユカドラムの祝祭2011/02/05 23:46:01

05 Fiesta de Tambor Yuka - ユカドラムの祝祭


 16世紀半ばからキューバの東部地域へ入植した多様なグループには、カナリア諸島から家族とともに入植し耕作に従事した者や、砂糖キビ農園やコーヒー農園での労働に従事させられた多数の奴隷がいた。18世紀には、カナリア植民者によって独占的に栽培されたブエルタバホ葉巻の品質が認められ入植は一層進んだ。そしてフランス人の入植とともにコーヒー栽培も盛んになり農業技術も向上し、砂糖の生産もさらに大きく発達した。それらに伴い奴隷の需要も増え、より多くのコンゴ人奴隷が連れて来られた。彼らは、その強靭な体力と忍耐力をもって厳しい肉体労働に従事した。

 1886年に奴隷制度が廃止され、その後の独立戦争が終わると、これらのコンゴ人グループは国内の入植によって減少し、いくつかのグループがヌエバ・フィリピーナ(現在のピニャール・デル・リオ)の山間部に残るばかりとなった。ここで彼らは小さな村々を作り、近隣の地域で農業や製造業に携わった。

 密林の交通の便の良くない辺鄙な土地にもかかわらず、彼らは日曜ごとに、植民時代に奴隷小屋で始まった習慣であるユカドラムの祝祭の為に集まった。このピニャール・デル・リオ州の社会は、以下の2つの点によって特徴づけられるものであった。州の特に中心部から西部に密集してはいたが、全ての自治都市のメンバー間の民族統一と移民者間の交流により生まれた相互関係にある。この団結は、競争心をくすぐる祭式の特性によるものであり、各コミュニティーから集まったソリストが饗宴の中で自讃の唄により相手をからかったり、または非難するといったものであった。

 異なる移民グループ間の経済と社会の接合と共存関係により、今日に至るまでその踊りと音楽は、比較的広範囲の地域に渡ってあまり変化する事なく残った。これは他の地域には見られない事である。この祭礼に関して、ピニャール・デル・リオと他州のコンゴ人グループの発達の最も顕著な違いのひとつは、カビルドなどの組織の不在に他ならない。なぜならこれは誰もが参加する事のできる世俗的なもので、カビルドやその他宗教団体に所属する必要がなかったからである。オルティスは、植民時代からあった祝祭の禁止により地方への転換が起こったと指摘している。他の専門家たちもまた同様に、この禁令が遠隔地での存続に繋がったと述べている。

 研究者メルセデス・パチェーコは数年前、”Atlas de la Cultura Popular Tradicional”を作っていた学術グループの前で、エル・グゥアヤボという地域の祝祭を再現した。その場は枝で装飾され、広い地域から伝統を知る者たちが招かれユカドラムの祝祭がいくつか録画/録音された。The Comision provincial del Atlas(現在のCentro de Cultura Comunitaria)は今日に至るまで、この団体の活動への参加を続けている。

 エル・グゥアヤボでの収録は、EGREM(レコード会社)の技術チームによって行われた。監修は、音楽学者マリア・テレサ・リナレス。その他、レコーディングエンジニア、技術助手、カメラマン、そしてICAIC(キューバ映画芸術産業庁)による遠隔操作装置を用いた効果の為にトラックドライバーも集められた。録音機材は、NAGRAのものが使用された。ピニャール・デル・リオ州の”Direccion de Cultura”はミュージシャンを招集し、上は100歳になる元奴隷の息子から、下は彼にcantos de puya(相手をからかい自らを誇る内容の唄)を習わなければならない若い世代までが参加した。即席で再現されたこの収録の演奏で使われたドラムは、彼らが長い間使用してきた古いものである。

 ユカドラムの祝祭は、仲間うちのカジュアルな集いで、アグアルディエンテ(初回の蒸留で得られたラム酒:一番絞り)を飲み、グァバの枝でローストした豚肉を食べ、踊り、唄い、そしてその激しく攻撃的な様子からgallos(雄鶏)と呼ばれるソリスト同士のコンテストが行われる。Baile de yukaは、キューバ全土で見られるバントゥー族由来の世俗的な祝祭の踊りである。これに似た踊りには、baile de makuta(マクータドラムで踊られるマクータダンス)、baile de mani(ピーナツダンス)、そしてルンバの古い形であるlas tahonasがある。

 ユカドラムのアンサンブルは、3つの片面皮のドラムから構成され、それらは通常アボカドやアーモンドといった芯が柔らかい木をくり抜き、1本の木からサイズの異なる3つのドラムが手作業で作られる。太く長い部分(約1.5m)からはカハが作られる。残りの部分からは中小のそれぞれムラ、カチンボと呼ばれるドラムが作られる。予め水漬け、なめし、伸ばし等の処理をされた円形の牛皮を広い開口部の方へ釘留めるする。その際には、灯心の火の熱で張りや音の調整がなされる。

 カハ奏者は、両手首にmaraquitas de guira cimarrona(ンケンビと呼ばれる瓢箪の実から作られた小さなマラカス)をつける。他の奏者は、ブリキで覆われた、ドラムの底部を撥で叩く。これはグゥアグゥアと呼ばれる。カハには即興演奏と「話す」という役割があり、変則的なリズムでダンサーのステップと掛け合う。ムラとカチンボは、よりリズムを維持する役割があるが、これはルンバの様な他ののアフロキューバのアンサンブルと同様である。その為、これらはトゥンバ、トゥンバドール、またはリャマドール(もしくはタホーナ)とも呼ばれる。イディオフォノ(金属製の打楽器)も必須であり、これは鋤刃や鍬刃(guataca)を鉄製の撥で叩く。他にはマリンブラ(木琴の一種)またはボティーハ(丸型の土瓶)、グィロ(中空の瓢箪の外側のギザギザを擦って鳴らす楽器)、そして田舎のソンのアンサンブルに由来すると思われるマラカスがある。

 ユカの踊りはルンバの様に、男女ペアで恋愛沙汰をベースに向かい合って踊る。踊りには、ロンキードとカンパネーロという2つの特徴的なステップがあげられる。ロンキード(いびき)は、横から連続して踏むステップで、後に前方へ進んでいく。カンパネーロは、男性がパートナーと向かい合い、腰や手を激しく揺らし、床に対して八の字を描くように踊る。カハのビートやllames(呼びかけ)は、踊りのガイド役になる。これはルンバ同様ドラムのリズムとダンサーの呼応との密接な関係がそこに存在するからである。

 唄はソロとコーラスによる短いモチーフと、通常高音から低音へ移行する装飾的なフレーズから構成される。ソリスト(Galloともいう)は、歴史や神話の一説をモチーフとして即興的に唄い、後にコーラスがそれを反復して唄う。

 バントゥー族の言語や方言はほぼ完全に消滅し、コンゴ族の言葉の一部が残るのみとなったが、これらにもその語義としての機能を失ったものもある。歌詞は、奴隷として連れて来られた祖先が話していたアフリカ訛りのスペイン語やヨルバ語、エフィク語、もしくは後にキューバの口語となったスペイン語のcalóで作られる。歌詞のリズムと表現には、コンゴの特徴が見られる。メッセージやPuyas(相手をからかい自らを誇る内容の唄)は謎めいたニュアンスが特徴的であるため、包括的な意味もまた不可解である。Puyasや自讃の唄は踊りの優れたスキルや優れた魔力を示すためのものである。

 唄は通常他のソリスト(Galloともいう)が、別の唄で”arrebate el canto”(唄を盗む事)によって遮らない限りは続けられる。これには、彼らの愉快な様子や笑いが音楽と踊りに付随する。

 この収録では個々に唄、議論、ドラムのビート、100歳の男が古来の唄を唄い始めてソリスト(Galloともいう)が彼に続いて唄っている曲、そして祝祭の喧騒を録音した。この音源からユカの明るい性質や健全な喜びを認めることができるだろう。

 収録は1978年3月24日にピニャール・デル・リオのルイス・ラソの丘にあるエル・グゥアヤボにて、地元のグループにより行われた。彼らは、ドラム演奏とコーラスを伴う唄を交代しながら演奏した。

ペルフェクト・リヴェラ・カラバリョ 98歳(リードボーカル)
アルマンド・カバレロ 78歳(農業従事者)
ドミンゴ・バリオス・イ・リオス 53歳(ソリスト)
ルイス・バルデス 61歳(農業従事者)
アリピオ・リベラ・イグレシアス (農業従事者)
ファウスティーノ・リベラ・イグレシアス (農業従事者)
フアン・リベラ・チャコン 32歳(農業従事者)


■ 収録曲

1. ユカドラムのソロと唄 3:23
2. 祝祭とリフレイン 15:00
3. Gavilan pollero 5:00
4. Ma Lutgarda 4:30
5. Llora, llora Magdalena 5:00


Antología de la música afrocubana.
Liner notes by María Teresa Linares. EGREM. col.0011.



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